UVERworldがまたしても新たな扉を開いた。前作から約9ヵ月ぶり、41作目となるニューシングル「ピグマリオン」、今作が放つ音像の斬新さ、現代社会の問題を反映した歌詞とそこに託されたメッセージののっぴきならなさに目をみはってしまう。今作に先駆けてリリースされたUVERworld初のインストベストアルバム『INSTRUMENTALS-∞』について、そして「ピグマリオン」のこと、さらには今もっとも興味を抱いているものについてTAKUYA∞(Vo.)と克哉(G.)にたっぷりと語ってもらった。

——まずは初のインストベストアルバム『INSTRUMENTALS-∞』のお話から。インストでベストアルバムを出すこと自体、なかなかないことだと思うのですが、どういった経緯でリリースすることになったんでしょう。
  • TAKUYA∞
    特に経緯というほどでもないんですけど、メジャーデビューの記念日を迎えるにあたって何か発表したいなと思ったときに、ふとインストのアルバムをリリースするのはどうかなって。SNSとか見てるとみんな“歌ってみた”とかやってるじゃないですか。そこで使ってもらえたりしたらいいんじゃないかなって。それにUVERworldは演奏だけでもすごくカッコいい曲がたくさんあるから、アルバムとしても成立するんじゃないかなと思ったんです。
  • 克哉
    当たり前ですけど、1曲1曲、ちゃんと作ってますから。僕らの音楽ってやっぱりボーカルありきやと思うんですよ。でも、その土台は毎回、妥協なく作り上げているので、そういうところも改めて聴いてもらえたら。
  • TAKUYA∞
    マズいなって思いましたもん、これ聴いて。ボーカルないほうがカッコええやんって(笑)。
  • 克哉
    ふはははは! そんなわけはないけどな。
——そういう意味ではUVERworldファンはもちろんのこと、バンドマンにとってもたまらない作品でしょうね。
  • 克哉
    ああ、そうかも。コード感もより綺麗に聴こえるから「なるほど、こういうことをやってたんだ!」っていう発見はあるかもしれないですね。「このコードにわざとこの音を当ててハズしてるんや」とか「ここでこういう転調をするんだ」とか。自分でも、こうやって俯瞰で聴くと「ああ、ここはすごくこだわってたな」とか思い出すんですよ。そのときそのときの自分のこだわりが手に取るようにわかるというか。
——そういった曲作りの仕組みみたいなものや、その時代その時代の音の変遷を聴き比べたり、いろんな楽しみ方ができそうです。2枚組33曲入りとボリュームもたっぷりですし、インストでここまでテンションの上がるベスト盤もそうないのではないでしょうか。
  • 克哉
    バックグラウンドミュージックとしても聴いてもらえる作品って今までUVERworldではそんなになかったですしね。それこそ最初にTAKUYA∞が言っようにYouTubeやTikTokの“歌ってみた”みたいなところで使ってもらってもいいし、好きなように楽しんでもらえたらありがたいです。
——そして8月17日には新曲「ピグマリオン」がリリースされます。「AVALANCHE」以来約9ヵ月ぶり、41枚目のシングルだそうですが。
  • TAKUYA∞
    おお!
  • 克哉
    すげぇ! そんなに出してたんですね、俺ら。
——常に楽曲を世に出し続けてますよね、UVERworldは。キャリアを重ねるにつれ、リリースの間隔が空くアーティストも少なくないですけど、UVERworldはまったくそうならないからすごいです。
  • TAKUYA∞
    できるだけコンスタントに出し続けていたいっていう気持ちはありますね。止まってしまうと4年間くらい空いてしまいそうな気がするので(笑)。
  • 克哉
    創作意欲が涸れることはないと思うんですけど、この日にリリースするっていう期限を設けないと、たぶんいつまでも作業し続けてしまうんですよ、僕たち。時間があればあるだけ、ああでもない、こうでもないってやり続けちゃって完成しない(笑)。リリース日っていう、いい意味での期限がありますから、今のところ。
——今回のシングルはカップリング曲も含めてTAKUYA∞さんが作詞作曲を手掛けていらっしゃいますが、「ピグマリオン」はどんなきっかけで生まれた曲なんでしょう。
  • TAKUYA∞
    まず、この歌詞のメッセージがドドドッと出てきたんです、自分の中に。そこからアコースティックギターと歌でメロディを作っていって。極端な話、このメッセージが上手くハマるなら、メロディはなんでもよかったんですけど、その中でも今回はみんなが歌えるような曲にしたいなっていう気持ちがあったんですよね。それで、いくつかできたメロディの中でもよりわかりやすいものを選んで。で、それを克っちゃんに渡したら、アコギのトラックを抜いて、代わりにボコーダーというエフェクトを使った音で構築してくれたっていう。
——楽曲の大半がTAKUYA∞さんの歌声とボコーダーのみで構成されていて、めちゃくちゃインパクト大でした。TAKUYA∞さんのデモをどう受け止めたら、こういう形になるんでしょうか。
  • 克哉
    なんとなくですけど、いい曲の定義というものが僕の中では二つあって。一つはバンドのアンサンブルと歌メロと歌詞がいいもの、もう一つはもっと突き詰めて、歌とアコギだけでめちゃくちゃいいっていう。この二つが僕の中の“いい曲”の核になってるんですけど、「ピグマリオン」は後者にしたいなと思ったんですよね。なのでバンドサウンドは極力削ぎ落とそう、と。ただ、アコギと歌という形にしてしまうのはUVERworldっぽくない気がしたし、ピアノと歌だけっていうのもなんだか面白くない。もっと新しい進化を見せたいなと思ってボコーダーにしたんですよ。今、僕らが新しいと思える、いちばん削ぎ落とした形がこれかなって。たぶん、これ以上ないです(笑)。1番の終わりからバンドの演奏が入ってきますけど、それまでの音に関しては。なるべく余計なものを入れたくなかったので、とにかく引き算の最たるものをしたっていう。
——そこにギタリストとしてのエゴは出てこないんですか。もっとギターの音を入れたい、演奏するカタルシスが欲しい、みたいな。
  • 克哉
    ギタリスト云々より、いい曲をさらにどう良くするかというほうに気持ちがいくんですよね。それは僕だけじゃなく、メンバーもみんなそうやと思う。エゴで壊したくないので、曲の世界を。
  • TAKUYA∞
    たぶん、それぞれのエゴがなくなったんじゃなくて、UVERworldとしてのエゴがめちゃめちゃ強くなってる気がしますね。バンドやのに、それを音に出さへんっていうのは、まさにUVERworldとしてのエゴだと思います。
——何より楽曲そのものを尊重したいということなんでしょうね。だからこそこの曲の、演奏が入ってきた瞬間の高揚感がまたすごくて。
  • TAKUYA∞
    僕もめちゃくちゃ感動しました。「これこれ! こんな感じにしたかった!」って。
——このサウンドに乗っているから、なおのこと歌詞が胸に刺さってくるんだと思うんです。今の時代、いちばん大切なことを真正面から突きつける歌詞ですよね、これは。
  • TAKUYA∞
    奇しくもこの時代にすごく合う曲になったなとは思います。最初に出てきたときからもう、歌詞はほとんど変わってないんですよ。
——“憧れた人が 自ら命を絶った”とか“誰があの国の偉い人になっても/どうしようもなくなって 核で脅すのかもしれない”とか、実際に起こった出来事に基づいて書かれたものですか。
  • TAKUYA∞
    はい。ここに書いているのは全部が実際のことっていうか、自分が思ったことですね。でも、特に何かを狙って書いたわけでもないんですよ。何も考えてないって言うと語弊があるかもしれないですけど、ホント自然にこのタイミングで感じたものが出てきただけというか。
——人のことはわからない、という前提がメッセージの軸になっていますよね。だから自分の思い込みだけで相手の気持ちを決めつけちゃいけないって。
  • TAKUYA∞
    そうですね。
——TAKUYA∞さん自身、いろんな人の勝手な思い込みに身を晒されていらっしゃるんじゃないかなってちょっと思ってしまって。
  • TAKUYA∞
    ああ……でも逆かもしれないです。僕が思い込んでしまうことのほうが多いんじゃないかな。例えば最近、すごく有名なアーティストのドキュメンタリーを続けて2本観たんですけど、どちらのアーティストも同じようなことで悩んでたんですよ。さっきまでステージに立って何万人もの歓声を浴びていたのに、ホテルに帰ったらひとりでコンビニのお弁当を食べている自分がいて、どっちが本当なのかわからなくなるって。そう言ってめちゃくちゃ泣いてるんです。僕はそれを観て「何言ってんの?」って思っちゃうんですよ。コンビニのお弁当が嫌だったら、お店のテイクアウトでもルームサービスでもしたらええやんって。ホテルで一人が寂しいって思ってるときだってファンはおまえのCDを聴きながらおまえのことを考えとんねん、そんなこともわからへんのかって。
——たしかに。
  • TAKUYA∞
    だったら、そこを退いてくれよって思っちゃう。俺が今、その場所をどれだけうらやましいと思いながらやってると思ってんねんって。だけど、その人にしかわからないこと、その立場に立たなかったらわからないことも絶対あるんですよね。それこそ「核兵器なんか捨てろや、どの国も全部」って思ってますけど、俺がもしあの立場になったとしたら、やっぱりどうしようもなくなってああいうことをしてしまったりするのかな、とか。ここにいたら絶対考えられないことですけど。あの……克っちゃんって虫を怖がりすぎるんですよ。
——いきなりですね(笑)。歌詞には虫についての描写もありますけど。
  • TAKUYA∞
    そう、虫からしたら、おまえのほうが怖いで?って思うんですよ。人間にパーンッて叩かれたら死んでしまうんやから、虫は。なのにキャーキャー、キャーキャー騒ぐんです(笑)。僕はそれが全然理解できないんですよ。蛾とかにも怯えてるもんな?
  • 克哉
    いつの間にかダメになりましたね、虫は。子供の頃なんて散々追っかけてたのに。でも五十歩百歩やけど、俺より彰のほうがひどいですよ。この間、スタジオにゴキブリが出てめっちゃ叫んでましたから(笑)。
  • TAKUYA∞
    ゴキブリなんて全然。あんなん、コオロギやん。
  • 克哉
    俺だってこっちに来なかったら別にええんやけど。
  • TAKUYA∞
    来たってファー(←やさしく逃してあげるジェスチャー)やろ。下手したら殺されるんやから、向こうのほうが絶対怖いで。
  • 克哉
    俺も殺さず逃すよ? できればこっちには来んといてな、お互いいい距離感を保とうやっていうだけなのに、あいつら、こっちめがけて来るから(笑)。
——ところでタイトルの「ピグマリオン」はギリシャ神話に出てくるピグマリオンのことですか。
  • TAKUYA∞
    そうです。あと、ピグマリオン効果ってあるじゃないですか。期待されると人はいい方向に向かったり、いい結果を出したりするっていう。それっていいなと思うんですよ。人間ってそういうものやし、お互いに大目に見てあげながら、それぞれがいい方向に向くようにしていけたらいいのになって。いろんなニュースとか観ていてもそうですけど、おまえが攻撃しているやつはホンマはおまえの敵じゃないでって思うことはたくさんあるので。
——視点を入れ替えるだけで見え方が全然違ってくることってきっとたくさんありますよね。それにしてもいい曲すぎませんか、これ。TAKUYA∞さんもファンクラブサイトのブログの中で“今年はカッコいい曲だけ作って、良い曲を作るつもりはなかった”と書いていらっしゃいましたけど。
  • TAKUYA∞
    やっぱり僕、いい曲が好きなんですよ、カッコいい曲以上に。ゆえにこそ、ちょっといい曲をリリースするのはもう少し先に取っておこうかなと思ってたんですけどね。「EN」っていうだいぶいい曲を出しちゃったので、1年ぐらいは置いとこうって思ってたんですけど……生まれちゃいましたね(笑)。で、生まれたら、どんどんリリースしていきたいじゃないですか。それをさせてもらえる環境がホントありがたいです。
——一方で、カップリング曲「BVCK」はライトなノリが心地よい1曲で。こちらも打ち込みがメインですが、肩の力がいい感じに抜けた、今までにちょっとないタイプの曲ですよね。
  • TAKUYA∞
    相当、肩の力を抜いて作りましたね。サウンドも斬新なものにしたくて……今までなら「これはちょっとやりすぎだな」っていうラインがの範疇ギリギリでやってきたんですよ。でも、今回はもっとはみ出してみよう、やりすぎてしまおうって(笑)。例えば1番のサビでの景色の変わり方なんかは、今までの僕らだったら行けなかったところですし。
  • 克哉
    ジャンルとしても初めて触るタイプの曲で、楽しかったです。こういうタイプの曲って全体的にもっとドロドロしがちなんですけど、ポップさでやり切れたのがよかったなって。いつもなら恥ずかしいと思ってしまいそうな音もこの曲だったらOK、躊躇するくらいだったら突き進んだほうがいいって思えたし、ふだんだったら削ってしまう音も面白いから入れようとか、いろいろやれてすごく心地いいところに行けた気がします。
——曲の中に“Come on!”とか“Whooo!”とか、合いの手みたいな声が入ってるのも楽しくて。
  • 克哉
    それこそ今までだったら削ってたと思うんですよ。でも今回は入れてもいいなって。
——どうしてそこまで突き抜けられたんでしょう。
  • 克哉
    今のままだったら、もはや自分たち自身に刺激を感じられなくなってくるというか……そういう時期なのかもしれないです、もしかしたら。かと言って、一周回るにはまだちょっと早いので。今が遊び時かなと思ってるんです。
——歌詞も独特というか、TAKUYA∞さんらしいというか、特に“運命の人”の捉え方が面白いなと思って。
  • TAKUYA∞
    “運命の人”っていうと最後まで寄り添って一緒にい続ける人っていうイメージがありますけど、そうじゃない人たちにも運命の人っていっぱいいる気がして。喧嘩して二度と会えへんようになったけど、その喧嘩によって変わっていった自分がいたとするなら、その人も“運命の人”って呼ぶべきなんじゃないかって思うんですよね。そういう分岐点が今まで何度もあったので、それをテーマにしてみました。
  • 克哉
    会ってない人のほうが逆に大事な人だった、みたいな。僕もこの曲を聴いてホントその通りやなって思いましたね。僕にもそういう人がいるんですよ、何人か。中には、今はまだそのタイミングじゃないって思って、わざと会ってないやつとか。でも、そいつがいなかったら、たぶん僕は今ここにいないので。
——まさに“運命の人”ですね。でもホント今回もUVERworldの今がビシビシ伝わってくるシングルで。では“今”にフォーカスして、お二人が最近いちばん興味を持っていることを教えていただけますか。
  • TAKUYA∞
    ここにきてファッションが好きですね。僕はふだん着る服とステージで着る服ってわりとイコールなんですけど、それくらい自分の好きなものは常に身につけていたいと思ってるんですよ。あと、アクセサリーも好きで。
——今日、つけていらっしゃるピアスやネックレスにはストーンがあしらわれていますけど、そういった石モノもお好きなんです?
  • TAKUYA∞
    好きですねぇ! ゴリゴリのやつが好きなんですよ。バンドマンはあんまりゴリゴリのジュエリーとかつけないじゃないですか。ブラックミュージックやヒップホップをやっているミュージシャンっておしゃれな人が多いのに、その分断がちょっと気になってるというか……僕はバンドマンだけどヒップホップカルチャーとかも好きなんですよ。取り入れるとかではなく、もっと当たり前に自分の好きなものだから身に着けていたいんですよね。よくしている太いチェーンのネックレスも、周りからは「そんなの、日本人には似合わへんから」みたいに言われてたんですよ。でも僕は「それでも欲しいねん」って買って、今、全然後悔してないですから。
——むしろ、そんなTAKUYA∞さんを見て「めちゃくちゃいいじゃん」って憧れた人がたくさんいると思います。
  • TAKUYA∞
    だったら嬉しいですね。「EN」の歌詞でも言ってますけど、似合うものじゃなくて自分が着たい、身に着けたいと思うものをとことん追求しようと思ってます。だからこのグリルズ(マウスピースタイプの歯のジュエリー)も作ったんですよ。正直、しゃべるときとか邪魔ですけど(笑)、でも好きなんです。バンドマンで着けてるやつなんて一人もいなくて、そこがまた気持ちいいんですよ。
  • 克哉
    僕は自分のスタジオですかね。今、そこを好きなものだけ置く場所にしていて。自己満足ですけど“UVERworld”っていうネオンサインをオーダーして置いてみたりとか、友達に壁に絵を描いてもらったりとか。最終的にはそこで死んでもいいぐらいの場所にしてやろうと思ってるんですよ。好きなものに囲まれて死ねたら最高に幸せじゃないですか。
——居心地良すぎて、そこから出てこなくなっちゃいそうな気もします。
  • 克哉
    もともとはそうなるのが嫌で、逆にいづらくしてたんです。ちゃんと家に帰ろうって思えるようにって。だけどコロナ禍になったことで、そういう場所があるありがたさを知って、だったら居心地良くしようじゃないか、と。幸い、そこにはシャワーがないから、ちゃんと家には帰りますし(笑)。好きなものに囲まれているからと言って、いいものができるかどうかは自分ではわからないですけど、少なくとも気分は良くなるので、何かしら曲にも作用するものはあるかもしれないですよね。
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